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ティーブレイク (カバンにまつわるおはなしです。) 2000/08/20


今日はちょっと淋しいトランクのお話


“ねぇ、古いトランク要らない?”
彫金師さんと新しい商品の打ち合わせ中に、こんなセリフと共に男の人が店に入ってきた。
“近くに止めた車の中に入っているんだけれど、ちょっと見に来てよ。”
男の人は、7年間時候の挨拶以外ほとんどしたことの無い近所のラーメン屋さん。白衣に帽子姿しか見たことの無い私は、男の人をラーメン屋さんだと確認するまでかなりの時間がかかった。私はその後すぐにラーメン屋さんのうしろをついて行き、車を覗き込んだ。かなりの年代モノの日本製のトランクが埃を被って横たわっていた。
“息子がもらったんだけれど、使い道が無いから良かったら使ってよ”
私は喜んで頂いてきた。

ラーメン屋さんは、30数年前からここにいる。私が店を借りた7年前からずっと店を開けつづけている。年中無休、24時間営業ではないかと思うくらい、朝早くから夜遅くまで営業していた。毎日顔を合わせると、“おはようございます。今日は暑いですね”とか“昨日はすごい風でしたね”といういかにもありがちな会話しかしていなかったが、それでも、夜遅く私が帰るときに電気がついていたりすると、それだけで何となく安心出来た。向かいに中華料理店が出来てからは、かなり影響を受けたらしく、出前の回数も減ってきていた。
ラーメン屋さんが店を辞める、と言う話を聞いたのは、トランクを頂いてから1ヶ月ほど経った頃。
明渡しぎりぎりまでお店を普段と変わり無く開き、最後の2日間で荷物を引き上げた。
ラーメン屋さんは田舎に母親を一人残しているため、家族で帰るらしい。30数年続いたラーメン屋のあっけない終わり方に、私は何となく潔くてカッコよくてうらやましくなった。そして、Teeの店に飾ってあるトランクは、お別れの挨拶だったのかもしれない。
しかしこれから毎日、真っ暗な通りを一人で歩かなければならなくなった。